位相シフト光干渉法を利用したセンサの研究開発
公開:2020年9月18日
2008年、極限環境下における地震観測を実現するため、これまでにない新しい技術開発を模索し始めていました。電子回路やセンサ部への給電が不要な地震計を志向し、光ファイバーを利用した光センサーに着目。ただ、当時一般的だった光干渉方式では長期間安定した出力を得ることが難しく、環境条件の厳しいフィールド使用には適さないと考えられました。
そこで、私たちは計測中に振動により変動する光の入力値について、パルス波を使えば、干渉したレベルとともに、計測中に変動した入力光のレベルも測定できないかと考え、基礎開発に着手。追って2011年には、光パルス波の一部の位相を変えることにより、光の半波長を超えて変動する距離を測定する方法を考案し、光センサシステムを開発しました。2012年末に開催された応用物理学会光波センシング技術研究会で、初めて「位相シフト光干渉法」という新しい独自技術について発表。そこで、実用化の検証を行うため、共同研究のパートナー探しをスタートさせました。
そんな折、今までにない国産技術で産油国等が抱える技術課題に対して、ソリューションを提供する事業を独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が募集していました。
光センサシステムは、光送受信装置は電気を使用するものの、光ファイバとその先につけたセンサには電気が必要ないため、特に厳しい環境下(砂漠、深海、高温高圧)でメンテナンスが少なくて済む(バッテリー交換が不要である)ことや、高周波数帯域、高感度という点が石油探査業界のニーズに合致し、技術ソリューション事業のフェーズ1に採択されました。フェーズ1では2014年度から2015年度までの約2年間で、その期間中に試作品を作り、テストフィールドでの観測や物理探査を行い、通常物理探査で使用されるセンサと遜色ないデータが示されました。この結果を受け、2016年度から2017年度のフェーズ2に進み、菊間国家石油備蓄基地の観測坑で数か月間観測を実施。2018年度も続けてJOGMECの資金援助を受け、フィージビリティスタディとして改良検証を行いました。※採択された事業についてはJOGMECのHPより公開
JOGMEC技術ソリューション事業のフェーズ1が終った翌年の2016年、文部科学省の次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(火山PJ)にも、光センサシステムは課題Eとして採択されました。JOGMECのご了承・協力を得ながら、秋田大学(当時)の筒井先生に採択機関・事業責任者になっていただき、火山観測への応用実験を始めました。京都大学・井口先生のご厚意もあり、新しくできた桜島高免坑道で観測を実施。筒井先生には桜島構造探査の際に取得した光センサシステムのデータを使って桜島の地下構造についてご報告いただきました。この際の評価が次年度以降の課題B2-2への採択に繋がり、2027年度まで継続される予定です。
課題B2-2において、2017年度は浅間山にて長期観測を実施。その後、文科省評価会で出される課題と向き合い、2018年度は固有振動数が30Hz弱のセンサを作成。2019年度は京都大学・中道先生とともに桜島ハルタ山観測点で、雷多発時期を含めた約半年間連続的観測を行いました。耐雷性能については、今年度の解析結果報告にご期待ください。※火山PJの報告書は文科省のHPより公開
精度の良い地震計測は実現できましたが、さらにその先を求める場合はいろいろと難題もあります。光ファイバの敏感さは、なかなかやっかいです。既存の光ファイバセンサ(温度計やひずみ計)は光ファイバ自体が温度や歪に敏感である特性を利用しています。一方、私たちは光ファイバをレーザー光の伝送路として用いるので、極力光ファイバへの影響を取り除く必要があり、現在も低周波数領域のノイズを更に低減するよう研究を重ねています。
安定して高精度な計測を実現するため、センサ筐体やファイバ被覆にも工夫を凝らしながら、一つひとつ確かに課題をクリアする地道な努力はこれからも続きます。
東京パワーテクノロジー株式会社の協力のもと、2019年6月から福島第二原子力発電所の観測坑に光センサシステムを設置しています。1回欠測がありましたが、すぐに修正対応することができ、1年を超える連続観測を記録。ここでも、データから見える課題を克服し、高精度かつ長期にわたって安定した計測を続けるシステムとするため改良を続けています。
今後、同システムは既存の地震観測網に用いるのではなく、現在世界中で観測できていない、もしくは観測しにくい場所への展開を考えています。
電子部品を使わない極限環境センシング位相シフト光干渉法による光センサ地震計測システム詳しく見る
極限環境ロボット研究所
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